今回はグランピングの市場規模について触れてみたいと思います。
グランピング業界の市場規模(国内旅行市場からの推測)
「進化し領域を拡大する日本人の国内旅行(JTB総合研究所)」によると、日本人の国内旅行の市場規模と旅行者数は下表のようになっています。
年度 | 旅行消費額 | 旅行者数 |
2015年 | 15.8兆円 | 3130万人 |
2016年 | 16.0兆円 | 3260万人 |
2017年 | 16.1兆円 | 3230万人 |
2018年 | 15.8兆円 | 2910万人 |
2019年 | 17.0兆円 | 3110万人 |
同調査の「1年内にキャンプ場やグランピング施設を利用したことがあるか」というアンケート(対象者:2062人)については、「利用した」との回答が5.2%を占めました。
キャンプ場の利用料金は、ホテルや旅館と比較して、かなり低めですので、単純に17.0兆円の5.2%の市場規模とはなりませんが、大きなマーケットがあるのは確かなようです。
ちなみに17.0兆円×5.2/100=8,840億円 となりますが、これは乱暴な計算ですので、もう少し分析を進める必要があります。旅行消費額には、交通費なども含まれますので、7割程度が実際の宿泊費と考えられます。また、グランピングやキャンプは季節指数が大きい業界ですので、真冬は需要が消失します。年間の半分程度の日数が需要期と判断するのであれば、
17.0兆円×5.2%(経験者率)×70%(宿泊費比率)×50%(需要期)= 3,094億円
が一つの市場規模の考え方かと思います。
もう一つ、キャンプ場の利用料の低さにも注意が必要です。
国内には現在、2000ヵ所以上のキャンプ場があります。対してグランピング施設は約280施設(キャンプ場提供のグランピングを除く)しかありません。現時点では、利用単価が低いキャンプ場が大多数を占めていますので、実際に消費されている金額は3分の1程度の800億~1,000億円ほどと考えられます。
一方で、JTBのアンケート調査では、グランピング施設、キャンプ場について「今後、利用したい」の回答は14.1%となっています。
旅行者の14.1%がグランピングに興味を持っていることを前提にしますと、国内旅行者数から試算すると、約400万人のターゲット人口があると推計されます。1人当たり2万円をグランピング施設で利用した場合、800億円となります。
全国の個別グランピング施設の売上積算で市場規模を予測する
次に、上述のような粗い計算ではなく、国内のグランピング施設を調査し、その合計売上高からグランピング市場の規模を予測してみたいと思います。
今回は、各OTAサイトやキャンプ場サイト、グランピング施設のまとめサイトからグランピング施設をピックアップし、予測売上高を積算し、市場規模を予測する方法をとります。
その前に、グランピング市場を取り巻く、隣接業界について解説しておきたいと思います。
キャンプ業界やホテル、旅館、コテージ、簡易宿泊所、民泊施設など多種多様なプレイヤーがグランピング市場に参入していますので、その動きを整理してみたいと思います。
キャンプ業界におけるグランピングへの取り組み
オートキャンプ協会が発行する「オートキャンプ白書2020」によると、
19年のオートキャンプ参加人口は前年比1.2%増の860万人で、7年連続で増加。19年は、キャンプシーズンである夏から秋にかけて、大型台風が上陸するなど天候に恵まれなかった。反面、秋から冬にかけてのキャンプ需要が一層高まり、キャンプ全体としては大きなマイナスとはならなかった。
19年は経験年数の少ない層が上昇。新規参入の増加による「若返り」の傾向が見られ、キャンプが活発に行われたようすが表れている。
オートキャンプ場の平均稼働率は同0.9ポイント増の17.5%、5年連続で過去最高を記録した。各地で自然災害による大きな被害を受けていたが、全国的にみると休日の天候に比較的恵まれ、年間を通してキャンプを楽しむ人が増えていることが好調の要因とされる。
平日の利用者も、前年に比べて増加したとの回答が同12.2%増の47.0%と大きく上回った。 収支状況は「黒字・トントン」であると回答したキャンプ場は同5.0%増の73.8%で、過去最高の記録を更新した。
とあります。
昨今アウトドアブームと言われますが、数字の通り、キャンプ業界の好調さが伺えます。キャンプ場の利用単価も年々、上昇しているようですが、この要因の一つに常設テントを設置し、グランピングプランを販売するキャンプ場が増加したことがあるようです。
実際、常設テントを設置して、グランピングを売り込んでいるキャンプ場は全国に約70ヵ所存在しています。
ホテル・旅館・コテージ・簡易宿所業界からのグランピング市場へのアプローチ
一方でホテル・旅館からのグランピング市場へのアプローチも増加傾向にあります。
グランピングの名称を使った宿泊プランを販売しているホテル・旅館は全国で74施設に上っています。特にコロナ禍で大きな打撃を受けている都心部のホテルでグランピング体験を謳ったプランが多く販売されており、関東圏では40施設が販売しています。
これらのホテルや旅館では、遊休地に宿泊機能をもったテントを設営するタイプではなく、既存の客室に宿泊する前提でプラン販売を行っており、純然たるグランピング施設とは言い難い内容ではありますが、広い意味でグランピング市場と捉える必要がありそうです。
また、コテージや簡易宿所については、全国96施設でグランピングを謳ったBBQプランが販売されており、もともとアウトドア環境がある施設が積極的にグランピングに取り組んでいる様子がうかがえます。
グランピングを謳う宿泊施設の数は全国で353ヵ所
下表は「グランピング」を謳う施設の調査結果です。全国353ヵ所ありました。
「グランピング」と表記した施設は、「開業当初よりグランピング施設を作る」という目的で、一定の敷地面積を確保し、開業した施設です。全国で115ヵ所という結果になりました。
コテージ型施設は、開業後に「グランピング」というキーワードで施設の集客を始めた施設を分類しました。全国で96施設あります。
ホテル型は既存客室を利用し、食事プランがBBQなどアウトドアを楽しめるタイプの施設を分類しています。全国で74施設という結果になりました。
キャンプ場型は、キャンプフィールドの一部に仮説ないし常設テントを設置しているグランピング施設です。あくまでキャンプがメインといった施設を分類しました。全国で69施設あります。
「人気施設」私共の独自の感覚で、「グランピング施設として広く認知されている」、「清潔感やグレード感が一定レベルに到達しており、高稼働」といった基準でピックアップした施設となります。全国で85施設ありました。
◆グランピング施設の類型
エリア | 人気施設 | グランピング | コテージ型 | ホテル型 | キャンプ場型 | 計 |
関東 | 35 | 50 | 30 | 40 | 27 | 147 |
関西 | 30 | 31 | 25 | 4 | 4 | 64 |
東海 | 6 | 7 | 8 | 3 | 2 | 20 |
北海道 | 0 | 2 | 5 | 1 | 6 | 14 |
北陸・新潟 | 0 | 1 | 0 | 6 | 4 | 11 |
東北 | 2 | 3 | 1 | 6 | 3 | 13 |
中四国 | 6 | 9 | 8 | 2 | 7 | 26 |
九州 | 6 | 11 | 7 | 11 | 12 | 41 |
沖縄 | 0 | 1 | 12 | 1 | 4 | 18 |
計 | 85 | 115 | 96 | 74 | 69 | 354 |
グランピング施設の市場規模を「全国のグランピングを謳う施設の合計売上高」とするのであれば、恐らく150億円~200億円ほどと考えられます。
5億円を超える年商規模のグランピング施設は全国でも、ほとんど見当たらず、繁盛施設で1億円~1.5億円前後がアベレージという肌感覚です。
また、1棟~9棟の小規模施設も多く、その多くは年商3,000万円~1億円前後と考えられます。
コテージ型施設については5棟~20棟程度で年商は1億円前後、ホテル型のプラン販売やキャンプ場型も年商規模は数百万円~1000万円レベルのところが多いと考えられ、353施設の平均年商は5000万円を下回っていると考えられます。
よって、グランピングを謳う施設の合計売上高は、最大でも
353施設×5,000万円(平均年商予測)=176.5億円
と考えられます。
ただ、グランピングを謳っていないコテージ、バンガロー、キャビン、トレーラー施設は国内には数多くあり、全国では1,000施設以上に上ります。
これらの施設の多くは老朽化が進んでおり、新設のグランピング施設と比較すると、単価が低く、売上も小規模ですが、3倍程度の施設数が存在します。
グランピングを「泊りのBBQニーズ」と大雑把に捉えますと、これらの施設売上もグランピング業界の市場と考えられます。
グランピングを謳わない1000施設 × 5,000万円(予測平均年商)= 500億円
さきほどのグランピングを謳う施設の積算売上高を加えて、
グランピングニーズ≒泊りのBBQニーズ≒676.5億円(176.5億円+500億円)
宿泊施設に向けたアンケート調査を行わない限り、正確な数字は判明しませんが、現状では、色々な角度から検証した600億円~800億円程度が市場規模と考えるのが妥当ではないでしょうか。
グランピングの潜在市場規模は2000億円~3000億円も
矢野経済研究所によると、2018年度のホテルの国内市場規模(事業者売上高ベース)は前期比5.6%増の2兆291億円であったと発表されています。
他の統計データでは、旅館業の市場規模は1兆円とするものなど、国内旅行市場が非常に大きなマーケットであることは間違いなく、今回予想したグランピング関連市場の600億円~800億円は、国内旅行市場において非常に小さなシェアであることがうかがえます。ホテルの数が5万件、旅館が3.8万件とする統計データがある中、グランピングを謳う施設数が353件と極めて少数派ということが原因です。
私共は、現在の人気グランピング施設は、リゾートホテルや旅館とパイの奪い合いをしていると考えています。そのような意味におきますと、潜在マーケットはリゾートホテル業界や旅館業界が抱える1兆円を大きく超えるマーケットと捉えることもできます。
グランピングを支持する層が若年層に偏っていることや冬季の集客が難しいビジネスであることを考慮してみても、魅力的な施設が増加し、認知が進めば、2000億円~3000億円の業界規模に育つ日も遠くないのかもしれません。
コロナ禍で、アウトドア選好が強まり、ホテルよりは初期投資を抑えて事業化できるグランピングを検討する事業者は急増しています。このような流れも、グランピングの市場規模を大きくする追い風となっています。
良質な施設が多く整備されることで、マーケット全体の規模拡大が実現され、さらには地方創生につながることを切望しつつ、我々も微力ながら業界の発展に貢献していきたいと考えています。